食物繊維の役割
こんにゃく、しらたきには、食べると体内の砂が出るという言い伝えがあり、昔から「砂払い」などとも呼ばれ、体内の不浄を払うという意味で季節の変わり目などに多く食べられてきました。
これらの食品は、こんにゃくいもを原料として作られます。
いもの中に含まれているグルコマンナンという炭水化物を水に溶かし出し、石灰乳を加えてのり状にし、型に入れて湯の中で凝固させるのです。
ところで、私たちの体が分泌する消化液には、マンナンを分解する酵素が含まれていないので、こんにゃくをエネルギー源として利用することはできません。
このように人間の消化酵素によって分解されず、消化されない成分のことを食物繊維と呼んでいます。
もっとも大腸の中に住んでいる腸内細菌には、マンナンを分解する酵素を持っているものもいて、およそ50%ぐらいは分解されるとも言われますが。
食物繊維の成分として最も代表的なものはセルロースです。
これは、切り干し大根、ブロッコリー、かぼちゃ、ほうれんそうなど多くの野菜類に含まれています。
人間の消化液にはマンナンと同じように、このセルロースを消化する酵素もありません。
かたつむりや一部の微生物は、セルロースを分解する酵素を持っているため、落ち葉なども栄養として利用することができます。
牛などの反芻動物では、癌胃という第一番目の胃にこのような微生物が多く生息していてセルロースの消化を助けるので、草ばかり食べていてもけっこう栄養を保つことができるのです。
人間の場合はセルロースを消化することができませんので、食物中の消化されやすい成分もセルロースに厚く包まれていると、消化されにくくなります。
たとえば、同じ米でも白米は消化がよいけれども、セルロースの多い厚い種皮に包まれている玄米は消化しにくいのです。
大豆の煮豆はやはり繊維の多い膜に包まれていて消化しにくく、繊維を除いた豆腐や加熱して機械的に粉砕したきな粉などは、消化しやすくなります。
納豆は納豆菌によって発酵させ、繊維も分解されていますので、非常に消化しやすくなっています。
エネルギー源として利用できないという理由から、長い間食物繊維は栄養学的にはほとんどかえりみられてきませんでした。
ところが10年ほど前から、こうした消化されない成分の栄養学的役割が大きく見直されるようになってきたのです。
昔の食生活は雑穀類を主とした食物性の農産物を主なエネルギ源としていたので、それに含まれている食物繊維をかなりの量とり入れていたのですが、食生活が変化し、肉食が多くなり、また穀物類も完全に精製して食べるようになると、食物繊維の摂取量がしだいに少なくなってきました。
すると、それに反比例するようにして大腸ガンや心臓病などがふえてきたのです。
そこで食物繊維についての研究が行われ、栄養素としての価値はなくても、体にとってたいへん重要な役割を果たしていることがわかってきたのです。
食物繊維の役割としては、まず血中のコレステロール値を正常な状態に保つ働きがあげられます。
食物中に繊維が多いと、胆汁の分泌を促して、その結果、高コレステロールを抑える作用があるのです。
これは胆汁に含まれる胆汁酸が、コレステロールを原料として作られるためです。
ですから、食物繊維は動脈硬化の予防や治療にも役立っているのです。
また、食物繊維の摂取量と大腸ガン発生率の間に密接な関係があるという統計も知られています。
肉食中心の食事が多くなると、タンパク質がかすとなって腸内に長時間滞り、腐敗して有害なアミンなどを発生することが多くなります。
これらのアミン類が腸壁から吸収されると、大腸ガンなど体によくない影響をもたらします。
このような不要な毒物ができないようにするためには、腸管内をいつも掃除することが必要ですが、マンナンやセルロースなどの繊維が多ければ、腸の内容物のかさが大きくなって腸の嬬動運動が促され、腸内の有害物質が速やかに排泄されることになるのです。
こうしたことから、欧米の人に大腸の病気が多いのは、植物性食品の摂取が少なく、そのため食物繊維が少ないためであろうということも言われています。
こんにゃく、しらたきを「砂払い」と呼んだ昔の人たちは、食物繊維のこのような役割のことは知らなかったはずですが、長い歴史のなかで培われた知恵だったのかもしれません。
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